自分の競馬なのに落ち着かない…なんて
なぜこんな遠い道のりをへてまでごはんを食べに出かけるかというと、ドイツの食事より、国境を越えてもなお魅力のある食事がアルザスでとれるからがひとつと、「オーペルジュードウーリル」は、オーペルジュを名乗りながら宿泊施設がなく、ここで食事するにはコルマールかストラスブールに泊まるしかないのだが、そこにはいいホテルがないのだ。
したがって、このレストランに匹敵するホテルを探してゆくと、バーデンバーデンまで行きついてしまったというわけ。
レストランは、イル川に架かる橋のたもとにある。
庭には花が咲き乱れていて、テーブルからこの庭やゆったりした流れのイル川を眺めながらの昼ごはんは最高にいい気分である。
「オーベルジュードウーリル」は、「ミシュラン」のガイドブックで最上級の三ツ星に輝く一軒だが、フランスの地方に点在する十五軒の三ツ星レストランのうち、老舗格だが、ペストファイブに入る店といわれている。
わたしは、この店へは三度目だが、来るたびに食べたくなってとってしまう料理がある。
それがグルヌイユ、かえるの料理である。
かえるのもも肉をムースにした、ムースリーヌードウーグルヌイユ。
ポールーエーベルラン”というのが名物料理で、“ポールーエーペルラン”とは、主人兼料理長の名前、そして、兄のジャンーピエールがサービスの先頭に立っている。
今回は、ムースリーヌでなく、セップという茸といっしょにポワレしかグルヌイユを食べることにしよう。
そして、メインには、鮭のスフレ。
鹿肉はフランスなのだが、季節を考えて、これまた名物料理のサーモンースフレ。
“オーベルジュードウーリル”を、はじめて選んだ。
ワインは、当然、アルザスの白、ソムリエがすすめてくれたのは、トランバッハのリースリンググルヌイユはセプとともに表面を香ばしく焼き上げてあり、それらをこんどは小野菜と一緒にクリーム煮にしてある。
メニューの表記との違いにややとまどったが、かえるのもも肉はやはりおいしい。
魚でもなく鶏肉でもない。
じつにエレガントな甘みをもった肉であって、この味からはあの姿はとうてい想像できない。
鮭のスフレは、鮭の切り身をすっぽりつつむようにスフレがかぶさり、表面に焼き色がつけてある。
スフレは淡雪のごとく口のなかで消えていったが、鮭は残念なことに火の通しすぎたった。
だが、この料理にリースリングがよく合った。
デザートの、ペーシューエーベルランを注文するまえに、チーズを食べることにした。
というのも、前回来たとき飲んだ、ブルゴーニュの赤が忘れられなかったからである。
ワインリストを開くと、そのワインがまだあった。
ラトリシェールーシヤンベルタン。
ソムリエが、ブルゴーユユというのに、デキャンタしてからまいでくれた肘の赤は、色こそやや退色気味だったが、香りはパワフルで、赤い果実の香りであふれた。
口にふくむと、ゆっくりとたゆたってから、どこにもあたらすに流れていった。
チーズでは、ルブロッションと絶妙の相性を見せた。
こんなにおいしいブルゴーニュとルブロッションは久しぶりだと言いながら、帰りの車の運転などとうに忘れて、その完熟のブルゴーニュを堪能したのだった。
落語の三題噺ではないが、ミュンヘンといって思い出すのは、「クライバー」「オーベルジーヌ」「カンディンスキー」である。
クライバーとは、カルロスークライバーのことで、わたしが最も好きな指揮者である。
クライバーは、職人肌の完璧主義者で、演奏をほとんど記録に残さない。
コンサートを開く回数も年に一、二回である。
それでも絶大な支持があり、おそらく世界で最も人気の高い指揮者だろう。
その秘密は、数少ないCDやレーザーディスクに記録された演奏をきいたり見たりすればいっぺんにわかることで、これほどまでに音楽をきく人を幸せな気分にしてくれる音楽家は他にはいないのではなかろうか。
その指揮ぶりは、音楽する喜びであふれている。
そのクライバーが、近年、ひんぱんに登場したのが「バイエルン国立歌劇場」である。
現在、クライバーが振ったオペラのレーザーディスクが何枚か発売されていて、R・シュトラウスの「ばらの騎士」、J・シュトラウスの「こうもり」の二枚ともこの「バイエルン国立歌劇場」での公演を収録したものである。
これを見て、わたしはどれほどミュンヘンへ飛んでいきたかったことか。
残念ながら、クライバーがこの歌劇場のオーケストラーピットに入って指揮棒を振ったのは、八〇年代後半までで、現在は、その縁が切れてしまっている。
わたしが初めてミュンヘンを訪れたのは、一九九〇年の初夏だった。
ミュンヘンの西も束もわからぬまま、どうしても国立歌劇場でオペラが観たかった。
そこで、オペラハウスから歩いて一分、同じ通りに面して建つ、「フィーヤーヤーレスツァイテンーケンピンスキー」に宿をとり、そこから三晩続けてオペラを観に通った。
そのとき、昼食に出かけていったのがレストラン「O」である。
国立歌劇場もホテルも街の中心部にあるのだが、「O」はそこから散歩がてらに歩いてゆける距離にあった。
「O」は、「ミシュラン」の三ツ星に輝く店で、フランス以外のフランス料理店で最もレベルが高い一軒と評判のレストランだった。
昼食ということもあったろうが、席は容易にとれた。
「O」というのは、”茄子”という意味で、その店名通り、店のベンチシート、力上アン、ランプシェードなどに、紫色がかった茄子色を使っている。
初夏ということで、はじめにアスパラガスのサラダを選んだ。
運ばれてきた皿には、白と緑のアスパラガスが盛られ、そこに緑の野菜とトマトが添えてあった。
アスパラガスは優しい味わいで、穂先はほんのり空豆と同じ香りがした。
続いて、ラヴィオリ入りのコンソメ。
なんと、コンソメにはもやしとしいたけが入っていた。
具のラヴィオリはとても大きく、仔牛のひき肉とほうれん草が詰められていて、思わず鮫子を思い出してしまったが、ラヴィオリの皮は粉のうまみ十分で、とてもおいしかった。
コンソメのダシも冴えた味で、塩加減も精妙だった。
主菜は仔鳩のロースト、焼き具合はきかれなかったが、肉はロゼの焼き加減で申し分なく、口に含んで噛めばじわっとブイヨンがあふれ、仔鳩ならではの香りがたっぷりあった。
どれも「ミシュラン」の三ツ星にふさわしい見事な料理だったが、わたしがいちばん驚いたのは、キルシュのソルベだった。
つくり立てがすぐに分かるなめらかさで、キルシュの香りに品があって、そして、すぐさま、あとかたもなく消え去った。
店をあとにする頃に、またミュンヘンへやってくることがあったら必ず立ち寄ろうと心に決めた。
同じ年の十二月、ミュンヘンへ出かけるチャンスが生まれた。
ところが、ミュンヘン滞在がスケジュールの都合で、どうしても日曜月曜にならざるを得なく、両日が定休日の「O」へは食べに出かけられなかった。
このときは「バイエリッシャー・ホフ」へ泊まって、やはりオペラを観た。
オペラはワーグナーの「さまよえるオランダ人」で、新演出の初日にぶつかった。
オランダ人にベルントーヴァイケル、ゼンタにユリアーヴァラデイ、指揮はウォルフガングーサヴァリッシュ。
カーテンコールで、ヴァラデイには大ブラヴォーだが、ヴァイケルとサヴァリッシュにはブーイングが混じった。
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